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最高裁判所第二小法廷 平成4年(行ツ)1号 判決

宮城県塩竈市北浜四丁目一五番二〇号

上告人

佐藤ヨシコ

宮城県塩竈市旭町一七番一五号

被上告人

塩釜税務署長 片倉茂生

右指定代理人

小山田才八

右当事者間の仙台高等裁判所平成三年(行コ)第六号不作為の違法確認請求事件について、同裁判所が平成三年六月七日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について

本件訴えを不適法として却下すべきものとした原審の判断は、正当として是認することができる。また、第一審の本案の裁判に対する控訴の理由がないときは、その訴訟費用の裁判に対する不服の申立ては許されないものであるから(最高裁昭和二七年(オ)第七三四号同二九年一月二八日第一小法廷判決・民集八巻一号三〇八頁参照)、原審はこの点に関し判断することを要しないというべきである。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中島敏次郎 裁判官 藤島昭 裁判官 木崎良平 裁判官 大西勝也)

(平成四年(行ツ)第一号 上告人 佐藤ヨシコ)

上告人の上告理由

○ 上告状記載の上告理由

行政事件訴訟法第三七条(不作為の違法確認の訴えの原告適格)について原判決の判断事由によると訴えの提起から口頭弁論の終結時まで行政庁の処分または裁決についての不作為状態が継続することを前提とし、とあるがこの訴えの違法判断の基準時については右判決のように判決時説を採るべきでなく、申立てから処分まで六年五か月以上経過していることからも実体法上違法となる時点であることを理由とする相当期間経過時説を採るべきである。又、このような長期にわたる未処理期間は合理性を欠き、国家権利を正当に行使しなかったことは明らかであり人権蹂躪もはなはだしく憲法第一一条、憲法第一二条、憲法第一三条、憲法第一七条、憲法第二二条、憲法第九九条違反は明白である。又、国税庁長官並びに国税局長名による「酒類の販売業免許等の取扱について「昭和三八年一月一四付通達間酒二-二の「酒類販売業免許取扱要領」の中で免許事務の処理期間として税務署においては申請書類を受領した日から最大限二か月の期間内とすることとあるにもかかわらずさきのような長期の不作為は国家公務員法第九八条違反であると言わざるをえない。

かかる法律違反より処分がなされた以上、もはや違法確認を求める法律上の利益がないとする原判決の判断を、到底容認できるものではない。

また、訴えの対象である被告人の不作為状態は、処分により解消されたとして却下判決を行いその訴訟費用についても上告人の負担とするとの第一審判決は、行政事件訴訟法第三五条(訴訟費用の裁判の効力)から民事訴訟法第八九条に基づいて敗訴者責任の原則より行ったものと推測できるが、この場合、上告人の訴えの提起、追行が上告人の権利の伸張、防禦に必要な行為であると言え、かかる場合に原則を単純に適用して訴訟費用の全部を上告人に負担させるのは妥当ではなく、訴訟費用の全部または一部を上告人が負担すべきであるのは民事訴訟法第九〇条より明らかである。

又、憲法第一七条と国家賠償法第一条からも被上告人の対応は受忍限度をこえる損害を与えた場合に該当し、その違法性は上告人の権利に対する著しい侵害であり、その過失は明らかでありこのことからも第一審の訴訟費用の全部又は一部を被上告人が負担すべきである。

以上

○ 上告理由書記載の上告理由

一、上告人が昭和二八年五月一一日被上告人から指令の〇五一〇三-〇三九号をもって、全酒類小売販売業の許可を受けてそれ以来肩書住居地において「閖上屋」という名称で右酒類の小売業をしており全酒類の卸売販売をいたすべく、被上告人に昭和五九年二月一七日酒類販売業免許の条件解除申請(以下条件解除申請という。)をし、同日受理されるも平成二年八月一日の拒否処分通知まで六年半の長きにわたり右卸売業を営む為の申請に対し何ら行政庁の第一次的判断権を媒介して生じた違法状態の排除を行わない不作為という作為(処分)を行ったことはいずれも当事者間に争いがない。

二、 そこで、本件不作為の違法確認訴訟における行政事件訴訟法第三条五項(この法律において「不作為の違法確認の訴え」とは、行政庁が法令に基づく申請に対し、相当の期間内になんらかの処分又は裁決をすべきにかかわらず、これをしないことについての違法の確認を求める訴訟をいう。)により提訴するも一審判決は訴えの前提として訴えの提起から口頭弁論弁論の終結時まで不作為が継続することが必要であるとしているが、被上告人の常軌を逸した不作為の作為(処分)が長期に行なわれたことの適否について判断すると、

(一) 上告人は、まず本件不作為の違法確認訴訟が長期未処理期間を考慮するとき、処分がなされたことの一事をもって不作為状態が解消された(権利救済された)とは言えないから長期不作為が違法であるか否かの判断を求めるこは法律上可能であるとするこのことは行政事件訴訟法を行政事件に関する裁判とし、行政事件とは行政法則=公法法規の適用に関する訴訟事件であると解した時(いわゆる公法私法の二元論の立場にたって行政事件=公法事件とする考え方)昭和四六年七月一日付間酒二-一四七通達で、上告人のように免許を受けてから一年を経過している者からの右申立については、税務署長は、新規免許に準ずることなく、もくろみ書、税務諸表、誓約書の提出により簡易な方法で決定するものとし、かつ右処理は最大限でも受理の日から二ヶ月以内になされなければならないものと定めているなどの理由から本件不作為の違法確認の訴えは訴えの利益を失っていない旨主張する。しかし原判決は、本件不作為の違法確認訴訟は訴えの提起から口頭弁論終結時まで不作為が継続することが前提必須条件であるとしている。これは当該「法令に基づく申請」に対して当該行政庁がなんらかの処分または裁決をすると、訴えの利益が失われる。右不作為状態の解消は、申請された処分または裁決に対する拒否処分または棄却裁決によっても果たされるとの理論に基づいたものと思われる。

(二) 次に本件不作為の違法確認訴訟は、当時適法に許容されるべき上告人の酒類卸売販売業を阻止、妨害することを決定的な動機、目的としてなされた違法無効な不作為の作為であるとする旨の主張について判断する。してみると

A 上告人はかねてより卸売業を行うべく計画していたところ昭和五六年頃から幾度となく条件解除申請の方法や添付書類の教示を受けるために被上告人と話し合いをかさねた結果、昭和五六年七月に申請受理されると判断ししかも間酒二-一四七通達と間酒二-二通達と酒税事務規定に基づく酒税法第一四条(酒類の販売業免許の取消)規定に該当しないことは(上告人は当時はもちろん平成元年六月一〇日付間酒三-二九五通達によってはじめての昭和三八年通達間酒二-二、昭和四七通達間酒二-一四七による特別措置が廃止されるまでは、条件解除申請に対する右通達の適用がなされるべきであった。)を確認した。右調査にあたり上告人は塩釜税務署に赴き、係員の説明を受けた関係各法令を調べまた卸売業営業のため必要な県や市の証明書類や添付申請書類などについて指導を受けた。

B そこで上告人は何度も被上告人に赴き申請した結果昭和五九年二月一七日受理されることができました。右受理されるにつき、上告人は昭和四六年通達が適用されるかを丹念に調査し(当時は前記のように昭和四六年通達は有効であった)条件解除拒否事由がないことをも確認した。(同時に三年余りに渡る不受理の違法についても確認した。)

C 上告人はその後幾度となく被上告人に条件解除認可を催促した。被上告人も係員を上告人のところに派遣し調査し、(この必要性に疑問がある)拒否事由がない(酒類の販売業免許の取消し該当しない)ことをも確認したうえ、数日間にわたり被上告人の指導を受けながら調査に応じ(上告人の仕入先に取引中止せよと圧力をかけたその後上告人は被上告人に口頭で抗議すると昭和六〇年頃仙台国税局より一戸氏が訪れ調査とその結果については絶対服従だいやなら免許を取り消すぞとおどかされた。)同調査はその後幾度となく年を超えて行われ上告人は被上告人にあて昭和六一年二月一三日催告書の提出をした。

D これにより小原統括官が近いうちに右申立は認可するから右催告書を取り下げよと要求され同年二月一九日取り下げた。その後二年余調査に明け暮れ何らの指示もなく、再三の釈明要求には回答なく調査だけを繰り返した。

E 昭和六三年四月三〇日上告人は小野弁護士名義による催告書発送。

F 同年六月一日水沢統括官は小野弁護士に対し再び調査に着手する旨回答した。

G 同年八月二二日から九月二二日まで都合七日間にわたり調査を行ったが調査完了といった。

H 同年一一月八日佐々木弁護士名義による通知書発送

I 同年一一月一一日小野弁護士と仙台国税局酒税課長補佐小川氏並びに三の輪氏に面談し洋酒酒卸と清酒卸ではどうか又上告人と面談したい旨の話をした。

J 同年一一月二一日上告人と右課長補佐両氏が面談し洋酒卸、清酒卸などと言った覚えはない輸入洋酒卸ではどうかとの話であった。

K 同年一二月頃庄司弁護士が二度にわたり三の輪氏と面談し催促した。

L 平成元年八月一日東北管区行政監察局主席行政相談官松崎氏より行政相談についての回答として「去る二月六日に申出のありました酒類販売免許の条件解除申立に対する文書回答の促進法につきまして仙台国税局に文書照会しておりましたところ、当該申立に対する部内検討は、ほぼ終了し、処理手続だけを残すのみであるとの回答でありましたのでとりあえずご連絡いたします。」との事務連絡が届いた。

M 平成元年一二月二七日本件提訴となる。

二 以上の経過によると、上告人の計画していた本件不作為の違法確認訴訟における条件解除申請は昭和五九年二月一七日上告人が申請した段階においては被上告人は申請受理日により二ヶ月をこえてその裁決につき不作為を行うことは何ら正当とされておらずかつ、その後平成二年八月一日の処分時まで酒税法の運用にかかせない間酒二-二並びに間酒二-一四七の右通達(この場合公法上の事項を知らせるため用いられる場合に該当し、通達とは国家行政組織法第一四条二項で「各大臣、各委員会及び各庁の長官は、その機関の所掌事務について、命令又は示達するため、所管の諸機関及び職員に対し、訓令又は通達を発することができる」とあり訓令に関する細目的事項、法令の解釈、運用方針等に関する示達事項を内容とし通達訓令が下級機関または職員の所掌事務や権限の方針・準則などを定めている場合これに基づいて権限を行使する限り、それは大きな力を持つに至り、このことは行使機能の量的拡大と専門化に伴い、それを画一的、統一的に行わなければならないために、通達により法令を補充することが必要となりここに通達行政という現象が生じてくる)に着目した場合、明らかに法律に違背する行為といわねならない。しかるにその後平成二年八月一日にいたって被上告人による処分が出されたことにより本件不作為の違法確認訴訟が棄却された場合被上告人の一連の行為は「裁量行為」「裁量処分」とみなされ先の通達によるところの「羇束行為」「羇束処分」とした上告人の主張が通らずその為上告人の権利救済方法として迂遠であることは否定できなくなり法の趣旨に反する。

三 ところで本件不作為の違法確認訴訟はさきの原判決のように客観的にみるとき、本件棄却はそれ自体としては違法ということはできない。しかしながら前記認定によると、被上告人およびその係員は、被上告人が通達による(条件解除申請について)処理方法を適用しない現状においては、上告人の本件不作為の違法確認訴訟が適法なものとして許容される関係上右条件解除申請(卸売業)に対する処分を阻止するという共通の目的をもって、間接的な手段を用いて、右解除をなし得ない状態を作り出すべく、本件不作為の作為という方法を案出実行した。そして被上告人としては早急に処分を行う必要があったのに、被上告人並びにその上級庁である仙台国税局は被上告人に対し積極的に不作為の作為を行うよう指導働きかけを行い、被上告人もこれに呼応して、本件不作為の違法確認訴訟に至らしめたものであり結局被上告人は仙台国税局と意思通じて、上告人の計画していた卸売業を阻止、禁止すべく、本件不作為の違法確認の訴えに故意に(結果的に)至らしめたとういべきである。(なお右訴訟の経過に照らすとき、被上告人がその形式はともかく実質的に全く独自の立場において本件不作為の違法確認訴訟に至らしめた「不作為の作為を行った」とは到底認められない。)

四、してみると被上告人のなした本件不作為の作為(処分)は、上告人が現行法上適法になし得る条件解除申請許可(卸売業)を阻止、禁止することを直接動機、主たる目的としてなされたものは明らかであり、現今条件解除申請認可の実態に照らしその不作為の違法確認訴訟の違法判断時の基準をどうすべきかという立法論はともかく、一定の障害事由のない限り、これを許容している現行法制のもとにおいては、右のような動機、目的をもってなされた本件不作為の作為という行政の一次的判断権に属する処分が受忍限度をこえる損害を与えた場合には、予見可能性の存否にかかわりなく「過失」を認定し、「過失」を主観的要素としてではなく客観的判断要素としてとらえていくという受忍限度論を適用すべきであり、法の下における平等の理念(憲法第一四条「法の下の平等、貴族の禁止、栄典」一項すべて国民は法の下に平等であって、人権、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。)に反するばかりでなく、憲法の保障する職業選択の自由(憲法第二二条「住居・移転及び職業選択の自由、海外移住及び国籍離脱の自由」一項何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。)ないしは私有財産権(憲法第二九条「財産権」一項財産権は、これを侵してはならない。)を侵害するものであって、行政権の著しい濫用(裁判昭和二九年七月三〇日民集八巻七号一四六三頁「法が一定の事実の存在を前提ないし要件として裁量権を付与する場合、当該事実の基礎を欠く裁量は、根拠法との関係で違法である」)(裁判昭和五三年五月二六日民集三二巻三号六八九頁「授権の目的に沿わないで裁量が行使される場合は、不正な動機にもとづいたものを含めて、違法とされる。いわゆる他事考慮の違法も、この類型に入れられる)と評価しなければならない。本件不作為の違法確認訴訟における被上告人の不作為の行為(第一次判断権により処分)は、上告人の右条件解除申請を禁止に対する関係においては違法かつ無効のものであり、被上告人の条件解除申請する根拠とはなりえないのである。(このことは本件の場合不作為の違法確認訴訟が処分の日のとうらいにより消長をきたすものではない。)

五、次に前記争いのない事実によると、上告人は本件不作為の違法確認訴訟の根基である条件解除申請から提訴に至るまで六年余にわたり右申立に対する不作為の作為を受け本件条件解除処分が得られていれば当然提訴は起こりえなかったわけでありその訴訟費用についても行政事件の専門性、特殊性に鑑みて弁護士費用は訴訟費用に含まれるとすべきである。何故ならこのような場合に原則を単純に適用して訴訟費用の全部を上告人に負担させるのは妥当ではない。個別の事情に即して訴訟費用の全部または一部を被告人が負担すべきである。さらに相当期間経過後に行政庁から処分をしたときは、被告の国、地方公共団体が勝訴するとしているがこの場合も被告行政庁の帰属する国や地方公共団体も費用の一部を支払うべきである(最判昭和二七年二月一日民集六巻二号八八頁)右行政の不作為の違法確認の訴えを行うについては本件不作為の作為処分の存在することが不可欠の前提とされており(本件不作為という作為が上告人に対してその効力を及ぼし得ないものであれば、本件不作為の違法確認訴訟はなされなかったはずである。)従って不作為の作為処分がなされなければ右訴訟費用の損害は生じなかったという関係にあり、同時に右訴訟費用の損害の発生は本件不作為の作為処分を前提とする不作為の違法確認訴訟によって通常生ずべき損害とみることができる。のみならず行政権の行使にあたる公務員たる被上告人によってなされた本件不作為の作為処分が上告人の条件解除(卸売業)を阻止禁止することを直接の目的、主たる動機とするものであることは前に明らかにしたところであって、被上告人としては上告人がもし本件不作為の作為(処分)を無視して卸売業(条件解除)を行うときは、法律上右条件解除に対する不作為(作為の処分)を根拠として条件違反で処罰することは明らかでありその結果上告人に営業上の損害の発生することを当然予見、認識していたものと認められる。(この点において本件不作為の作為処分は故意に基づく行為である。)してみると、本件不作為の作為処分と訴訟費用を含む損害の発生との間には法律上因果関係が存在する。

六、以上によると上告人のその余の主張について判断するまでもなく、上告人は、公権力の行使にあたる被上告人がその職務を行うにつき故意をもってなした上告人に対する関係において違法な本件の不作為の作為処分(何もしないことを目的とした作為)により前記訴訟費用の損害をこうむったと認めることができる。なお上告人が昭和六一年二月一九日催告書の取下書を被上告人に提出したことにつき本件不作為の作為処分において、卸売業をなす意思、催告する意志がなくなったわけではないのでありさきに述べたとおり被上告人より近いうちに許可するから取り下げよと要求され取り下げたに過ぎないものであり、しかも本件不作為の作為(処分)は被告人の故意によるものであり右不作為の作為を容認肯定したものでないことは明らかであるから、右取下書の提出により本件不作為の作為処分の違法生が阻却される筋合はないものとういうきである。

七 よって、被上告人に対し不作為の違法確認訴訟を提起できるとした根拠は、次のとおりである。

(一) 違法判断の基準時はこの場合処分の性質や内容に即して具体的に個々に考えられなければならず、上告人は提訴時(不作為の作為という行政の第一次的判断権に属する処分)の違法性を争っているのであり、また不作為の違法確認訴訟は処分時(この場合あくまで提訴時)における行政処分(何もしないことで作為を行っている不作為の作為)の適法・違法を現実にするものであるから基本的には提訴時にたつのが正当である。

(二) 不作為の作為という処分につき特殊な利害関係をもつのが、国民一般を代表して公権力の行使の違法を攻撃する、一種の代表訴訟ないし客観訴訟とかの一面をもつこともこの場合意義がある。

(三) いかに当該法の経緯において給付訴訟や義務づけ訴訟を認めないことの妥協案として提示され、いわゆる抽象的義務確認訴訟として制定され又行政庁に特定の処分をなすべきことを裁判所に求める訴えが三権分立に反するあるいは司法権の限界を超える等の理由(行政権の第一次判断権の尊重)か制定された経過からしても、かかる不作為が消極的であれ行政庁の第一次的判断権の行使であり、それに対する不服の訴えであることからその判決は、当該違法な不作為の状態の排除(解消)、するわち、当該行政庁がなんらかの処分または裁決をすることを拘束するにとどまるにせよより明確で個々の内容ごとに具体的な判決を望めるとするのが妥当である。

(四) この訴訟形式が認められる理由として処分をしないで放置しおくことは違法な処分をなしたと同じく国民の権利を侵害することになるからである。もしここでかかる違法が確認されることなく放置されるとき行政事件訴訟法と司法権の範囲を考慮すれば憲法三二条「裁判を受ける権利」一項何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪われない。とあるとおり裁判を受ける権利を保障されておりこれを具体化して裁判所法第三条一項は「裁判所は、日本国憲法に特別の定めのある場合を除いて一切の法律上の争訟を裁判し、その他法律において特に定める権限を有する。」とあり最高裁は法律上の争訟とは、「法令を適用することによって、解決しうべき権利義務に関する当事者の紛争」と解している。(最判昭和二九年二月一一日民集八巻二号四一九頁)又憲法八一条「法令審査権と最高裁判所」は最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。としており行政訴訟法制度は国民の裁判を受ける権利の保障の具体化として、また法治主義の実効性を担保する制度であることをも考えれば、かかる訴訟を司法権の枠外にあるとする統治行為理論(この場合個々に具体的に判別すべきであるのに判決時前に処分があったことの一事をもって行政権の尊重を目的に訴えの利益を失うとした)は、否定されなければならない。

(五) 国家公務員法第九八条一項職員は、その職務を遂行するについて、法令に従い、且つ、上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない。とありすなわち、行政事務に従事する公務員は、上下の命令服従関係を構成しながら、一体として行政目的を追求しなければならないので、上司の職務上の命令に忠実に従わなければならないのである。その「職務」の範囲は法令、条例、地方公共団体の機関の定める規定によって定まり、次いでこれらの法令等の範囲内で発せられる上司の命令によって定まる。とあり本件の場合は明確な職務命令違反(通達無視)と言わざるを得ない。かかる場合そもそも準法令に位置すべき(被上告人はこの通達を公開通達と称し広く一般に周知準拠を求めている)通達に違反しているのであるから処分があったことの一事をもって訴えの利益を失うことはあり得ないのである。

(六) みなす認容規定と訴えの利益との相関関係について、法令に基づく申請に対し、申請を受理した行政庁が一定期間内になんらの応答もしない場合、申請の認容とみなされたりする。(例所得税法一四七条、法人税法一二五条、いずれも青色申告の承認を所轄税務署長に申請した場合である。)本件の場合このみなす認容規定を準用すべき被上告人側に重大過失又故意があったと認定されるべきである。かかる場合訴えの利益がいつの時点で確保されたことになるかというと条件解除申請受理後二ヶ月経過時点すなわち昭和五九年四月一七日である。

以上右の趣旨を異にする原判決はこれを取消すべきでかつ不作為が違法であることの判断を求めたものである。

以上

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